1.グローバリゼーションのリセットと新たな潮流
2022年は地政学リスクが世界経済や金融市場に大きな影響を与え、各国の関係性や通商をリセットした年になったと言えます。また、COVID-19や最近の政治的制裁により、2020年以降は、企業は価格よりもサプライチェーンの確保を優先せざるを得なくなり、貿易の流れが大きく変わった結果、戦略的な産業分野の国内回帰・国内開発への移行が進んでいます。
また、合わせてグローバル・ウエスト(欧米の先進国とその同盟国)は、戦略的観点から、グローバル・イースト(ロシア、中国とその同盟国)から離れる一方、グローバル・サウス(ブラジル・ロシア・インド、中国とその他の多くの発展途上国)は、独自の編成を強めています。これらの動きは、少なくともこの後2年~5年程度は続くものと考えられます。
2.これまでの金融体制のリセット
COVID-19によるサプライチェーンの分断、ウクライナ戦争をきっかけとした本格的なエネルギー危機と食糧価格の高騰は、各国に急速なインフレをもたらしました。
各国中央銀行は、大規模かつ迅速な金融引き締めを余儀なくされ、世界的な低金利の時代は終わりを迎えようとしています。しかしながら、不安定なエネルギーや食品価格の上昇だけではく、賃金上昇によってもたらされた旅行、接客、医療サービス等の分野でもインフレの影響が及んだことで、物価上昇は広範なインフレにまで拡大しており、期待インフレ率よりも実際のインフレ率を重視する先進国の中央銀行は、2023年中に利下げを実施する可能性は高くないと考えています。
3.世界市場環境
COVI-19の混乱後、各国政府は、国内で政治的に誘発された課題に対処するために、公共支出を増やす傾向にあります。多くの先進国も同様に、2023年に財政赤字が大きく改善していくというシナリオは見えません。
英国でトラス政権が打ち出した大型減税策(後に撤回)をめぐって、財政悪化への懸念から通貨ボンドがドルに対して急落する等の市場の混乱をもたらし、退陣に追い込まれた事実が示すように、金融市場は持続不可能な財政政策、特に持続不可能な対外収支を拒否します。その結果、国防費や公共事業等の恒久的な増加に必要な資金を賄うには、増税に頼るか、公的債務の大幅な増加というリスクを伴う選択肢を取る国が増えて来るものと考えられます。そのため、多額の債務を抱える国家のソブリン債(政府や政府機関が発行または保証を行っている債券の総称)の利回りは、再び急激に上昇する可能性があると言えます。
4.米ドルの行方
米国連邦準備制度理事会(FRB)は、引き続きタカ派の立場をとり、米ドル高が世界的な金融政策の引き締めの中心であり続けることが想定されます。各国が自国の通貨安により輸入インフレを悪化させないようにするためには、ユーロ圏をはじめとした各国は、FRBと歩調を合わせて、利上げ路線を継続せざるを得ないと考えられます。日本においても、12月の金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の運用見直しを決定し、長期金利(10年物国債利回り)の変動許容額を従来の±0.25%程度±0.5%に拡大するという、実質利上げが行われたことも記憶に新しいかと思います(この発表を受けて、10年物国債利回りは0.25%から0.46%へと急騰し、ドル円は137.1円から133円へと下落)。さらに、米ドル高が継続すると、新興国からの資金引上げが加速する可能性もあります。
実質貿易加重米ドルは既に1985年以来最も高い水準にありますが、2023年の中間~後半にかけてピークをむかえ、いくらか落ち着きを取り戻すものと考えられます。
5.世界の長期的見通し
2023年は、ウクライナ戦争によるエネルギー価格の高騰や中国の成長率低迷の影響が色濃く残るものと考えています。ユーロ圏及び米国も景気後退に陥るリスクが高いものと考えています。
2024年には徐々に回復に向かうと想定していますが、2022年までに起こった世界的・経済構造的な変更に伴うダメージが全て回復するには、時間がかかると思われます。
6. 2023年の注目トレンド
①インフレ率のピークに伴う利上げの終了
各国でインフレ率がピークに達し、最終的に低下し始めれば、中央銀行は利上げを停止することになります。ただし、インフレ率は各国中央銀行の目標を上回る水準で推移すること思われ、2023年中に利下げが行われる可能性は高くないと考えます。
②成長率は低成長
世界的な金融引き締めによる制約により、世界の成長率は概ね低水準で推移するものと考えます。
③各国の増税(財政健全化)
インフレや企業倒産等による国民の生活危機に備えるための公的支援措置や国防費の増加のために、各国は借り入れコストが高止まりする中、歳出をまかなうために、各国政府が増税を行う可能性が高いと考えます。
④債券投資の魅力アップ
インフレがピークを迎え、債券利回りが高水準に戻るにつれて、債券リターンは魅力が増してきます。新興国の主要通貨建てソブリン債、米国国債、投資適格社債等も注目です。
⑤株式市場の不安定さの維持
株式市場のバリューエーションの縮小(特にITベンチャー等の新興企業)は、2022年後半の特徴でしたが、低調な経済環境は2023年以降も逆風うとボラティリティをもたらすものと考えられます。ヘスルケアをはじめとして、安定した収益、低いレバレッジ。価格決定力を持つディフェンシブなセクターや地域や戦略に着目しています。
⑥米ドルの推移
2023年もほとんど期間において、米ドルは金利の優位性により、強いポジションを維持すると想定されます。また、特に経済成長速度が鈍っている人民元等の新興国通貨に対して、引き続き堅調に推移するものと予想されます。
⑦マルチアセット投資
債券利回りがより高い水準にセットされたため、資産クラスとしての債券の、株式に対する相対的魅力が増していることから、マルチアセットに対する分散投資のメリットが復活することが想定されます。
<参考>
CREDIT SUISSE: file:///C:/Users/miyamoto/Downloads/investment-outlook-2023-ja.pdf