【1.居住法人】
シンガポール国内で事業の経営および管理(意思決定等)が行われている場合、その企業はシンガポールの居住法人と見做されます。一方、外国企業のシンガポール支店は海外本店により経営と管理が掌握されているため、シンガポールの居住法人とは見做されないと考えられます。居住法人・非居住法人とも適用される法人税制は同じですが、居住法人のみが享受できる新会社に対する免税措置、国外源泉所得に対する免税措置、租税条約に基づく源泉税の減免、外国税額控除などの優遇措置を非居住法人は享受できないこととされています。
【課税対象所得】
シンガポールは属地主義を採用しており、シンガポールに源泉がある所得、ならびにシンガポール国外源泉所得のうちシンガポールで受け取られる所得が課税対象となりまます。シンガポールで受け取られる国外源泉所得については一定の免税範囲があり、国外源泉所得が国外で課税の対象となり、かつ国外の最高法人税率が 15%以上である場合は、シンガポールに送金される配当金、国外支店の所得、シンガポール国外で稼得したサービス収入は、免税の適用対象となります。
【キャピタルゲイン】
シンガポールでは原則として、キャピタルゲインに対して課税はされませんが、繰り返し発生する等、本業所得とみなされるものはキャピタルゲインとは判定されず法人税の課税対象となります。例えば、株式トレーディング業者が売買する上場有価証券のトレーディングなどはキャピタルゲインには該当せず、通常の法人税課税の対象となります。
実務上は、キャピタルゲインに該当するか、本業所得に該当するかの判断が困難なケースも多いと思われますが、企業が保有する関連会社の株式の売却時における譲渡所得については、2012 年 6 月 1 日~2027 年 5 月 31 日の間、売却前に最低 24 カ月以上にわたり、20%以上の株式保有率を維持している場合には、キャピタルゲインに該当することとされ、課税所得の対象から除外されることとなっています。なお、これに該当しない場合には、取引頻度、保有期間、売却の背景等によってキャピタルゲインか否かの判定を行うこととされています。
【経費関係】
課税所得を得るために専ら発生した費用は、原則として損金算入することができるとされています。役員報酬や接待交際費等についても、日本のように限度額は定められておらず、事業に関連するものであれば原則として全額損金算入できます。一方で、資本取引の範囲を広く捉えられる傾向があり、為替差損や借入金利子については一部損金不算入とされる場合があるので留意が必要です。また、減価償却費の損金算入についても建物等に係る減価償却費は、一部承認を受けたものを除いて損金算入が認めらないこととなります。
【欠損金関連】
日本とは違い、原則として永久に繰り越し可能です。ただし、以下の事由が生じた場合には、原則としてすべての欠損金が消滅します。
・ 最終株主の過半数が、実質的に変動した場合
・ 事業内容が大幅に変更した場合(減価償却に係る欠損金のみ)
なお、一定の要件の下に、年間10万Sドルまで1年間(2020~2021 賦課年度は3年間)の繰り戻しも認められています。
【法人税率】
法人税率は、居住法人・非居住法人ともに17%です。ただし、2020年賦課年度以降は、通常の法人課税所得のうち最初の1万Sドルの75%及び次の19万Sドルの50%が免税とされている(部分税額免除制度)一方、一定条件を満たすスタートアップ企業は、最初の10万Sドルの75%及び次の10万Sドルの50%が免除となっています(新スタートアップ会社税額免除制度)。
ここでいう一定の要件の主たるものは以下です。
・ シンガポールで設立され、税務上もシンガポール居住法人であること
・ 株主が 20 人以下であること。
・ すべての株主が個人であるか、もしくは、個人株主が 10%以上の株式を保有していること。
・ 主たる事業内容が、投資会社、売買または投資用不動産の開発でないこと。
【外国税額控除】
二重課税排除の観点から、シンガポール国外で課税された所得に対して、シンガポールでも課税される場合には、当該国外で課税された外国税額と当該所得に対してシンガポールで課税された金額のいずれか低い方を限度として、シンガポール法人税額から控除することができます。ただし、外国税額控除の適用は、税務上の居住法人に限るとされています。
【申告・納税手続き】
法人税については、「見込申告」と「確定申告」に分かれている。
「見込申告」については、各事業年度終了から 3 カ月以内に見込所得(Estimated chargeable Income / 以下、ECI)の申告を行わなければならないとされています。ただし、年間売上高が 500 万 S ドル未満(2017 年 6 月以前は 100 万 S ドル未満)であり、かつ、課税所得が発生していない場合には ECI の申告は不要とされています。
「確定申告」については、(休眠会社を除く)法人は、原則として各事業年度終了の日の属する年の翌年 11 月末を期限として、内国歳入庁(IRAS)に確定申告書(Form C / Form C-S/ Form C-S Lite)を提出することが義務付けられています。Form C と呼ばれる一般的な確定申告書には、監査済財務諸表、税額計算書およびその他の根拠資料を添付する必要があります。しかし、年間売上高が 500 万 S ドル以下などの一定の要件を満たす中小規模企業は、簡略化された確定申告書(Form C-S)、さらに売上高が 20 万 S ドル以下の小規模企業は 2020 賦課年度から、Form C-S よりさらに簡略化された確定申告書(Form C-S Lite)の提出だけでよいとされており、この場合には、監査済財務諸表等の添付書類は不要となります。
納税手続については、シンガポールでは、賦課課税方式が採用されているため、申告時に納税は行わず、申告後に IRAS から納税通知(Notice of Assessment, NOA)を受領した後に、これに基づいて納税を行うこととなる。
<出典・参考URL>
JETRO : https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2022/3240d5bc2269d430/202212.pdf
Singapore Statutes Online : https://sso.agc.gov.sg/Act/ITA1947
IRAS :
https://www.iras.gov.sg/taxes/corporate-income-tax/income-deductions-for-companies/taxable-non-taxable-income
https://www.iras.gov.sg/taxes/corporate-income-tax/income-deductions-for-companies/business-expenses/tax-treatment-of-business-expenses-(m-r)
https://www.enterprisesg.gov.sg/financial-assistance/tax-incentives/tax-incentives/double-tax-deduction-for-internationalisation
https://www.iras.gov.sg/taxes/corporate-income-tax/income-deductions-for-companies/unutilised-items-(capital-allowances-trade-losses-donations)
https://www.iras.gov.sg/taxes/corporate-income-tax/basics-of-corporate-income-tax/basic-guide-to-corporate-income-tax-for-companies#:~:text=to%20new%20companies.-,Corporate%20Tax%20Rate,a%20local%20or%20foreign%20company.
https://www.iras.gov.sg/taxes/corporate-income-tax/income-deductions-for-companies/claiming-reliefs/foreign-tax-credit
https://www.iras.gov.sg/taxes/corporate-income-tax/form-c-s-form-c-s-(lite)-form-c-filing/overview-of-form-c-s-form-c-s-(lite)-form-c
https://www.iras.gov.sg/taxes/corporate-income-tax/form-c-s-form-c-s-(lite)-form-c-filing/guidance-on-filing-form-c-s-form-c-s-(lite)-form-c
https://www.iras.gov.sg/taxes/corporate-income-tax/estimated-chargeable-income-(eci)-filing